時折、差別について考えたくなるようだ。
2017年6月29日のメモ
先日、ソフトバンクホークスのサファテ選手が、米国代表の女性サッカー選手メガン・ラピーノ選手に暴言ツイートをしたことが話題になった。ラピーノ選手は同性愛者であることを公言しており、LGBTに対して差別的な政策を取るトランプ政権を非難。トランプ政権の糞なホワイトハウスなんかに誰が行くか、と言ったり(オバマ政権時には訪れている)、国歌斉唱時に人種差別に抗議して片膝をついたり、という物言うアスリートだ。
今年女子サッカーW杯では米国が優勝し、最優秀選手と最多得点選手になったそうだが、私はこの騒動までラピーノ選手を知らなかった。見てみたら、かっこいい人だ。強く、ピンクの髪で、男性に媚びる必要のない、自信家の女性である英雄。自分の力で社会を自分の理想に近づけようとする人。見ていると勇気が出る。
サファテ選手は彼女に対し「そんなにアメリカが嫌いなら、米国から出て行け」と発言。私はサファテ選手の発言は社会的に非難されるべきだと思う。ソフトバンクホークスが彼を解雇してもおかしくないレベルで。
愛国心がないなら国の代表になるべきではない、という気分なのだろうが、確実に、サファテ選手の愛国心のあり方は、ラピーノ選手の愛国心のあり方とは(そして私の愛国心のあり方とも)異なる。ラピーノ選手は私の見た所、かなり愛国的な人間だ。単純に彼女はトランプ政権に批判的なだけで、政権と国とは全く別のものだ。国を愛するからこそ政権を批判する、ということは頻繁にあり得るし、特に振る舞いの極端なトランプ政権なら尚更だ。まずはサファテ選手の想像力の欠如がある。
異なることも、異なるものを理解する能力がないことも、仕方がない。しかし、「国から出て行け」というのは、かなり排他的な発言である。その人の祖国から立ち去れと言っているのである。サファテ選手にラピーノ選手の愛国心のあり方を理解するだけの知性がないとしても、そもそも国民には自分の国を愛さなくてはいけない義務などないのである。どんな権利があって、他人にその人の祖国から出て行けなどと言えるのであろうか。
日本人の中に、サファテ選手に賛同する人もそれなりにいるようだ。そういう人たちは、自分が理不尽に自分の暮らしている国から出て行けと言われる可能性を微塵も感じたことがないのだろうと思う。海外に住んでいると、その国の国民でない以上、自分に側に非が全くなくとも、ある日突然国外退去になる可能性はいつだってある。いつ「国に帰れ」と言われ、今の生活を丸ごと失うかもしれない、という恐怖は通奏低音のようにある。(逆に開き直って、どこでだって生きていけるさ、というタフさも身に付くが。)福島の原発事故が起きた時、道で通りすがった他人から、多分彼からは中国人か韓国人か日本人かの見分けもつかなかったと思うが、「Go Home Japan」と怒鳴られたことがある。その時の言いようもない怒りは、絶対に忘れられない。極たまに「Go Home China」と言われることはあっても(中国人の人数が多いのだから当然だ)自国の名前で言われた時は、全く違う怒りだった。勿論どの社会にも一定数、排他的な人間というのはいるものだ。日本にもいるだろう。しかし、その矛先が自分に向く、しかも、祖国で、ということを考えてみて欲しい。その理不尽さは、許されていいものではないと思う。
以上はやり取りだけを見た場合だけれど、勿論背景はある。
ラピーノ選手が男性選手だったら、サファテ選手は同じことを言えたろうか。或いは同性愛者でなかったら。
サファテ選手は「サファテ、あなたは愛国の意味を根本的に理解していない。愛国とは、一時的な政権への盲目的服従ではなく、国を良くしようと望むことだ、ミーガン(ラピーノ)の演説に言われているように。」というリプライに対し、「LGBTが平等を保証されていない分野がひとつでもあるのか?実際女性は男性よりも、父親の承認なしに中絶できるという権利をひとつ余分に持っているじゃないか。それはいいのか。あなたはそれをする(:意味取れず)色んなやり方があるということに抗議したいんだろう?自分はこのやり方には賛同しない」と返している。そもそも返信に全くなっていないのはさておき、突然LGBTに対する偏見や女性蔑視が如実に顕れている。そもそも彼は、白人異性愛者男性至上主義なんだろう、と敷衍できる。
来年の大統領選を控え、トランプ政権は移民排除の成果を上げるため、移民の強制排除を実行するとしている。それに反対して、米国旗を汚しメキシコ国旗を掲げたりする事件も起きている。
時を同じくして、トランプ大統領が
「興味深いことがあります。いわゆる“進歩的“な民主党の女性議員たちはもともと、政府が完全に崩壊していて、最悪で、腐敗していて、世界中のどこにあっても機能しない国の出身です。(もしそれが政府と言えるならの話ですが…)」
「そんな議員たちが、地球上で最も偉大で最も強力な国家であるアメリカ合衆国の人々に、私たちの政権運営への悪口を吹聴しています。なぜ彼女たちは政府が崩壊して犯罪が蔓延している出身地に戻って、手助けしないのでしょう?」
「その後戻ってきて、どうやって解決したのか教えて欲しい。そうした国は、あなた方の援助をひどく必要としているから、簡単には戻って来れないがね。(民主党の)ナンシー・ペロシ下院議長が喜んで無料の旅券を手配してくれると確信しています!」
とツイートした。要は、出自が移民のアメリカ人民主党”女性”議員に対して、出自の国に帰れ、と言っている。国の大統領がこの有様なんだもの、こんなことを当り前だと思っているアメリカ人はきっといっぱいいるんだろう、嫌な国だ、と思いかけて、自国の首相を思い出して暗い気持ちになった。
ラピーノ選手のW杯優勝パレードのスピーチから。
「私たちはもっと頑張らないといけません。もっと愛を持って、ヘイトを減らさないといけない。もっとしっかり相手の声に耳を傾けて、喋るのを減らさないといけない。
ここにいる人も、いない人も、ここにいたくない人も、賛成の人も、反対の人も、全員がこの世界をより良くするための責任を負っていることを、私たちは知っておかなければいけません。
このチームはその責任を肩に乗せ、私たちの立場や影響力を理解して、よく頑張ってきたと思います。
私たちはスポーツ選手です。サッカー選手です。女性アスリートです。
でも私たちは、もっともっとそれ以上の存在です。
そして、あなたも、もっとそれ以上の存在です。
皆さんは、ただのファンではありません。ただスポーツをサポートするだけの人たちではない。4年に1度、応援してくれるだけの人ではありません。
皆さんは毎日この道を歩き、毎日このコミュニティと触れ合っている人たちです。
(中略)これが私から皆さんへのお願いです。自分にできることをやってください。やらなければいけないことをやってください。挑戦してください。より多く、より良く、今までの自分よりも大きくなってください。
私たちは今日この場で皆さんとお祝いをするために、たくさんのものを背負ってきました。それも、笑顔で。
だから私たちのために、皆さんもそうであってください。どうかお願いです。」
Listen more, talk less.